病めるときも、健やかなるときも。

 老神父は快く、崩れかけて立ち入り禁止になっていた教会での挙式ごっこを許可した。
理由は聞かれなかった。言い訳を考えてきた身としては正直な話肩透かしを食らった気分だったが、同時に嘘をつかずに済んだことに安堵した。
 本当はこの世界に居ない筈だから、結婚に関しても普通通りには行かない。法的に相手を縛るものは何も無いし、縛り付けるためのものなら欲しいとは思わないが、何か自分に誓えるような契機となる出来事が欲しかった。新たな生活の礎となるような。そんな儀式を、嘘で塗り固めずに済んだことに感謝しつつ、その場所を見上げる。
 蔦の絡んだ、少し崩れかけた教会。光と闇のあわいの世界を生きていく自分達に、これ以上ふさわしい場所は無いように思われた。
 闇に呑まれる事は無いだろうが、闇から離れることも無いであろう、自らの立場。それでも。傍らに立つ光に拒まれる程の黒ではないのだから…構わない。
 儀式めいて差し伸べた手を取り、木漏れ日が差し込む祭壇へ向かう。決まりきった口上を述べる神父の前に頭を垂れながら、ちらと視線を交わす。

 ままごとの様な生活。ままごとのような結婚式。これから待つであろう愛しくも脆く稚拙な日々に、悪戯を企む子供のように互いに声を忍ばせて笑った。
「…誓うとしたら、神に?」
 囁くように問掛けると、彼女は微かに首を振った。長い髪がさらりと揺れ、光を弾く。
「いいえ…私の心の問題だもの。私自身に。」
 その表情に息を呑み、次の言葉を捜す前に、覚悟を問いかける神父の声が割って入る。
「誓います。」
 真っ直ぐ前を見て答えるそれに答える声が。何よりの道しるべだ、そんな言葉が胸を過ぎった。

 

 

管理人コメント:ジーヴィクイラスト処女作を投下後、掲示板でジーヴィク語りをしたら、不意打ちでこのような素晴らしい作品を頂く事になってしまいました。

短編ですが、まさしくイラスト中において、私のイメージした通りの世界観が広がっていて、初めてこちらを読ませて頂いた時には震えがきました。(偶然にもBGMは『薔薇は美しく散る』だったという)

いやぁ、人間、何が幸福に繋がるか分からないものですねっ♪

蒼牙様、改めてありがとうございました!