2015年6月1日 / 最終更新日時 : 2015年6月1日 aoi-tamaki 長編小説 還り着く場所(14) その日、頭上に広がっていたのは、雲一つない晴天だった。 遠く、果てなく、ひたすらに。神の国まで続くような高い空の下、主の恵みをもって絶え間なく降り注ぐ陽光の中、青年が捧げていたのは祈りではなく、同じキリスト教徒の血であり […]
2015年5月17日 / 最終更新日時 : 2015年5月17日 aoi-tamaki 長編小説 還り着く場所(13) 「──皆、貴女の事を愛していました」 鼓動に合わせて鈍く痛む胸に、知らず手を当てながら、力無き者の守護者と謳われ、また煉獄の戦鬼と怖れられた青年は、来たるその日、その瞬間を脳裏に描く。 思い起こす度、未だ魂に刻まれた傷口 […]
2015年5月6日 / 最終更新日時 : 2015年5月6日 aoi-tamaki 長編小説 還り着く場所(12) ──師父と仰ぐその男と最後に会ったのは、16歳になった年。ちょうど初陣を前にした前日の事だった。 父が亡くなって間もなく、後見人となった祖父の意向によって、ジルに学びの楽しみを授けてくれた家庭教師の多くはことごとく罷免さ […]
2015年4月12日 / 最終更新日時 : 2015年4月12日 aoi-tamaki 長編小説 還り着く場所(11) 『こないで……お願いだからこないで……!』 虚ろな目でガラス窓の向こう、鈍色の空を見上げた男爵の脳裏に、在りし日の女の言葉が木霊する。 ──脳裏に浮かぶのは、美しいが恐怖に引きつった貴婦人の顔。 ああ、なんでこんな時に思 […]
2015年4月4日 / 最終更新日時 : 2015年4月4日 aoi-tamaki 長編小説 還り着く場所(10) ──そこは例えるならば悪魔の箱庭。無造作に切り取られた地獄の断片だった。 気がつくと、ジルは一人、その場所に立っていた。 石造りの部屋。採光用の天窓から差し込むわずかな月明かりと松明によって照らされた空間は薄暗く、 […]