彼氏彼女の事情・食事編(その1)
(初出:May 03 [Thu], 2012)
少し前に更新した小話でジャンヌ様が元帥の『魔力供給』について触れていましたが、これに関してルカさんやクリス君を含め、『そもそもこのサイトにおける〈吸血鬼〉とは何ぞや?』という根本的な設定を含め、補完してみる作者の覚え書きエントリー。
以下、割と本編の壮絶なネタバレを含んでいる為、その点が気にならない方(と長文に耐えられる方)だけどうぞ。
■本館における(また小説世界の常識上の)吸血鬼(ヴァンパイア)という存在■
……当初からサイト上に掲載している設定資料集中で定義される吸血鬼、もとい〈ヴァンパイア〉とは、
俗に『吸血鬼』と呼ばれる〈魔人〉の一種族。
その特徴として夜行性である事、超人的身体能力を誇る不老不死の肉体を持つ事などが挙げられる。
一般に流布されている情報とは異なり、日中の活動も可能で、その吸血行為によって容易に繁殖する事もない。だが、人間にとって脅威の存在である事には何等変わりなく、教皇庁を始めとする特務機関にとって、常に最大の仮想敵の一つとみなされている。
知能は人間と同等以上で極めて狡猾。加えて執念深い。
自種族優越意識をひけらかす排他的な思想の持ち主が多い為、人間ばかりでなく、魔族間でも敵対する種族は多い。
大別すると、先天性と後天性の二種があり、純粋な魔族である先天性種は強大な魔力を持ち、人間の物理法則を無視した現象をも容易に可能とする。
後天性種は先天性種によって遺伝子操作された人間の末路で、先天性種の従僕以上の存在に成りうる確立はいたって低い。
能力値は瞳の色で識別判断する事が出来るが、金眼の爵位クラス(八割方先天性種である)は絶対数が少ない為、普通ヴァンパイアというと赤眼で知られている。
高位の先天性種を倒すには一撃必殺が鉄則で、一度灰燼と化した後も、念入りな儀式処理を行わなければまた復活してしまう。
……という解説がされており、西洋・中東の伝承に語られるような『彷徨える死者(リビングデッド)』や『屍食鬼(グール)』といった『死人が蘇ったもの』ではなく(それはそれで別に存在している、一応)、少なくとも退魔組織では、最初から人類とは在り方の異なる『一種族』として認識されている。
イメージとしては、『墓場から蘇った足のある幽霊』というよりも、『夜行性の(キリスト教的に)物凄く邪悪なエルフ』、もしくは『人の形をとったドラゴン』といった方が近い。人間よりも遥かに精霊や天使に近い、霊的に高度な存在である。
よって出自は人間よりも古く(ヴァンパイアの方は、むしろ人間の方が歴史的経緯(※後述)から『自分達を雛形として創られた、出来損ないの紛い物』と見ていて、その亡霊扱いされているのを不愉快に思っている)、優越種としての誇りから、『我々こそこの星の真の霊長である』と自負し、常に選民思想全開な為(これが結果として貴族趣味に繋がる)、人間はもとより、他の魔族連中にとっても鼻つまみものとして扱われている。(いわば種族全体が厨二病という痛い人達である←)
とにかく出自が出自で能力的にはチートもいいところなので、一体でも出現すれば迷惑この上なく、前述の経緯から、事ある度に他の魔族や人間にちょっかいを出しては、歴史上に火種をばら撒いてきた。
そんな自己中な夜魔の王様達ではあるが、今まで人類や他の魔族が滅びることなく、それなりにパワーバランスが守られてきたのは、ひとえに彼らの致命的なまでの繁殖能力の低さにある。
ネズミ算式に増えていく多くのエンターテイメント世界の吸血鬼とは違い、悲しいまでに彼ら(特に先天性の純血種)の絶対数は少なく、実は教皇庁に狩られるまでもなく、近年ではひたすら減少の一途を辿っている。
先天性種の長達のもっぱらの悩みは、自分達の種の保存と、いかに良質の『糧』を確保・分配するかであり、その一つの答えとして、最も成功している例が、イシュトヴァンや貴人だったりする模様。
……ちなみに『吸血』とは『糧』である『気』ないし『魔力』を得る為の一手段であって(最もこれが一番効率が良いからこそ定着しているわけですが)、小説内でプレさんが実行している通り、『対象の魂魄や生気を取り込む』事が出来るならば、何もこの形にこだわらなくてもいいわけです。
むしろ現代では、(あくまでも同意の上なら)プレさん方式の方が、カモフラージュもきいて問題がないかもしれない……
そうした事情を踏まえた上で。
まだ夜の闇が深かった中世ならいざ知らず、一人行方知れずになればたちまち大騒ぎの現代で、ルカさん達が普段どうやって生命の糧を得ているかというと……
■作中の主な吸血鬼諸氏の食事事情■
・ルカシュ(後天性吸血鬼・エステルライヒ伯→ローマ伯(のちに公爵)
……かつてはそれこそ史実における元帥も真っ青の勢いで、老若男女問わず人間を狩りまくり、自らの血肉に変えていた為、その魔力貯蔵量は計り知れず、能力行使に何の制限も受けていなかった、まさしく『鬼』であり『魔王』。
これは吸血鬼に強制的に転向させられた際、魂の在り方が変質したのに加え、不幸な状況も手伝い、彼が本来人間としてもっていた善良さや倫理観が吹き飛ん でしまったが故の所業で、糧を得る以上に殺戮そのものを愉しんでいた節もあり(百舌鳥の速贄のように、教会の尖塔に遺骸を突き刺して晒し者にしたり、はね た生首を司教に送り付けたりしていた)、その残虐極まりない狩猟方法は、同族でさえ嫌悪し、目を背けた程。
更にその魔手は無辜の人間ばかりではなく、同じ吸血鬼にまで伸びるに至り(自分達が助けを求めても何もしてくれなかった教会はもちろん、ルカさんが何よ り恨んでいたのは、自分を人の身から堕とした血の親であるから当然である)、その復讐心と刹那的な快楽を満たすだけの死に急ぐような彼の在り方は、同族か ら急速に危険視されるようになり、教会・吸血鬼の双方から挟撃される形で、最終的に当時の聖騎士(※元帥の事)によって倒された。
復活後は、以前『糧』に不自由していなかった分、課せられた摂取制限は彼にとって非常に過酷で、当初はかなり苦しんだらしい。おまけに夜間ばかりでなく日中の活動もせざるを得なくなり、常に睡眠不足に苛まれている。
教皇庁にとっては、良くも悪くも全盛期から比べ大分弱体化してしまっている彼であるが、それでも並の魔術師よりはるかに強靭な身体能力と絶大な魔力行使を可能としており、やんちゃ時代にストックした余剰魔力のおかげで何とかやりくりしているらしい。
(元帥が『剣』の力をもってしても殺しきれず、あっさり復活できたのもそのせい。本人は死にたかったみたいだけど)
化け物クラスの魔術師や神代の吸血鬼がごろごろしていた中世ならいざ知らず、現代ならばまだ十分に通用する実力の持ち主。
現在は、非戦闘時は植物からの生気などで適当に己を慰めつつ、主に教皇庁側から提供されたパートナーであるレジーナから、ごくまっとうに血液を介して体内に魔力を取り込んでいる。(レジーナ自身が強力な霊能力者である為、致死量の血液を摂取しなくても、普通の生活をするだけならば、二、三日に一度の補給で十分間に合うらしい)
正体が割れてからは蓮美からも血液の提供を受けるようになるが、後に彼女を本気で愛してしまうようになるので、『愛する人を食い物にしたくない(※天魔や精霊の類は、元が精神生命体なので、好悪の対象と『一つになりたい』という欲求が非常に強く、情愛の度が過ぎると、結果として相手をより強力な一方の内に取り込んで殺してしまうようになる。いわゆる『食べちゃいたいほど可愛い』を本気で実行してしまう)』という、魔性としての性質と、本来の人間としての愛情の間で懊悩し、苦しむようになる。
……愛に生き、愛に死ぬ。大本はどこまでもロマンチックで純情一直線な魚座青年のルカさんなのであった。
(そしてそういう本質をしっかり蓮美は見抜き、受け止めている為、彼を可愛いと思っている。精神年齢的には、ルカさん21歳、はっちゃん26歳なので、このサイトでは珍しく、ルカ蓮は姐さん女房なカップルだったりする。レジーナにしても24歳だし……ルカさんは本来、年上のお姉さんに可愛がられれる弟タイプなんだよな……うらやましい奴め)
・クリストファ(後天性吸血鬼・ヴェネチア伯)
……吸血鬼となったきっかけこそ不幸なものの、人外となってからは最も幸福で地に足のついた生活をしている成功例の一人。後天性のいわば〈成り上がり者〉であるにも関わらず、現在、〈ヴァンパイア〉と呼ばれ畏怖される一族が、本来在るべき姿を体現する数少ない真の〈夜魔の王〉。
後見人となっているのが数少ない公爵クラスの純粋種なのもあり、同族からも一目置かれる存在。
一般家庭の生まれであるルカシュに対し、元々裕福な家門の生まれだった彼は、まだ少年の頃、家督争いに敗れて死にかけていたところを、血の親である貴人に救われ、育てられたという経歴を持つ。
彼にとって貴人は命の恩人であり、また誰も信頼出来ず、閉ざしていた心に差し込んだ唯一の光──奪われて後、再び与えられた母であり、姉であった。やがて成長するに従い、その親愛の情は恋人に向けられるそれへと変わっていく。
そして成人を迎えるにあたり、自ら望んで、彼女と同じ永遠の時を歩む事を選ぶ。元々素質が高かったのもあり、既に貴人の元から出奔していたルカシュを除けば、彼女の生涯最高の傑作となった。(西洋版・逆紫の上)
現在は『ナダスディ』の姓とヴェネチア伯の称号を与えられ、貴人からは独立した家門を構えているが、彼女のパートナー兼騎士である在り方自体は変わっておらず、定期的に互いの元を訪れては褥を共にしている。つまり、彼自身が未だ『吸われる側』でもあったりする。
ルカシュとは違い、全てを納得し尽くした上で吸血鬼となった為、彼より若いがあらゆる部分で達観している。
過去の家族を含め、ヘロドトスの時代から欲にかられた醜い争いを繰り返し、自らを滅ぼす人間に幻滅している部分もあるが、同じ星に生を受けた命として、他の種族と等しく慈しみを覚えている。多くの先天性種とは違い、他の魔族を殊更侮蔑する事もない。ただ淡々と自らを律し、力ある者として、また貴人の騎士としての務めを果たす。
基本、どこまでも温和で優雅な紳士である彼だが、貴人にとって特別な存在であるルカシュにだけは、嫉妬や嫌悪といった、普段は胸の奥に潜めている負の感情を爆発させる。
……そもそも二人が見てきた貴人という女性の姿に余りにも差がある為、互いの主張が相容れる事はどこまでいってもないのであった。
さて、貴人の糧となっている立場の彼であるが、彼自身も存在を維持する為には生気を補給する必要があり、それは基本的に、貴人からの独立後、自らが召し抱えたメイドの少女(以前短編小説に登場したアンジェリカ・孤児だったらしい)からの吸血や、イシュトヴァンから提供される特殊な血液製剤などで賄っている。
同族に対し無礼を働くハンターや、かつてのルカさんのように著しく種族間の調和を乱すような『不忠の輩』に対しての処断の際、これを実行する事もあるが、魔力補給を目的に、自ら積極的に狩りをする事はない。
(彼自身の燃費がルカさんに比べて割と良いというのもある)
相手が人間であろうと魔族であろうと、必要以上に命を弄ぶのは以ての外。悪戯に憎悪と怨嗟を生み出すそれは、結果として自らの命を縮める事になる……というのが彼の考え方。あらゆる意味でルカさんと対極的な存在。元帥と同様、非常に『できた人』である。
……気がついたら4000文字を軽く超えてしまっていたので(汗)、前・後編に分ける事にします。他のメンツ+ネタバレに関してはまた次のエントリーで。